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外国人研修・技能実習に関する成果事例

事例8 かわいい笑顔と職人のまなざし (アイシン辰栄株式会社)

2009年3月


技能検定随時3級の合格証書、名古屋市長賞、中部経済産業局長賞の賞状を両手に笑顔の郭さん

(左から)技能検定随時3級の合格証書、
名古屋市長賞、中部経済産業局長賞の
賞状を両手に笑顔の郭さん

 外国人研修・技能実習制度を活用して日本で活躍する技能実習生の多さでは全国でも有数の中京地区で、名古屋市長賞受賞(第42回愛知県塗装技能作品展)、中部経済産業局長賞受賞(第43回愛知県塗装技能作品展)、そして技能検定(金属塗装作業)随時3級合格、という輝かしい実績を上げた技能実習生がいると聞き、真冬の東京を出発し、彼女がいる愛知県碧南市へ向かいました。


 彼女の名前は、郭慧娟(かく けいえん)さんといいます。アイシン辰栄株式会社(以下「アイシン辰栄」)で、車体外装品の金属塗装の実習を受けています。アイシン辰栄は、1961年7月に設立された、自動車産業の重要な一翼を担う樹脂成形・塑性加工・表面処理の専門メーカーで、3つの工場を保有しています。そのうちの一つである郭さんのいる衣浦工場は、鉄系の高防錆・高級外観塗装品の専門工場で、デビジョンバー(車の窓ガラスの円滑な昇降を補助する機能を持った製品)を始めとした車体外装品を主に生産しています。


アイシン辰栄(株) 外観

アイシン辰栄(株) 外観

 郭さんは、中国山東省青州市の出身で、山の多い自然豊かな村で両親と弟の4人家族で暮らしていました。自分の子どものころを振り返り「あまりしゃべらないおとなしい子でした」と言うものの、郭さんは、弟の進学や家計を助けたいという強い思いを胸に、心配して何度も反対する両親を説得し続け、20歳になったときついに来日しました。


 郭さんは、アイシン辰栄の研修1期生です。1期生は、性別や年齢も様々で、同じ話題で盛り上がることも少なく、同期の中でも若い郭さんは目立たず存在感が大変薄かったため、「大丈夫かな、この子」と第一次受入れ機関や企業の人に心配されていました。指導員である生産グループ主担当の長澤良一さんも当時の郭さんについて「筋はいいかなと思ったが、飛び抜けて良いという感じではなかった」と振り返ります。


来日直後、集合研修中の郭さん(前列左から2番目)

来日直後、集合研修中の郭さん
(前列左から2番目)

 来日当初、まだ日本語もよく分からない郭さんは、日本語で言われる細かい作業の指示や内容等が分からないため、悔し涙を流すこともありました。ホームシックにかかった郭さんは、母国にいる父親に電話しましたが、父親に「自分で選んだ道だから頑張れ。途中で投げ出して帰国しても、中国でも何もできないぞ」と励まされ、頑張ろうと思ったそうです。そこで、郭さんは、まず日本語を上達させることが大切であると思い、勇気を出して日本語で挨拶することから始めました。すると、返事が返ってくることがとても嬉しくなった郭さんは「もっと多くの日本語を覚え、話したい」と思うようになり、日本語の勉強に多くの時間を費やすようになりました。来日1年目くらいは、同期の人と同じかやや劣るくらいの日本語レベルであった郭さんも、持ち前の好奇心でぐんぐん上達していきました。日本語が上達するにつれ、作業の指示や内容等も分かり、周囲からの信頼も得られるようになり、2年目からは作業も楽しくなったそうです。


郭さんに噴霧距離の重要性を指導する長澤さん

郭さんに噴霧距離の重要性を
指導する長澤さん

 作業は、長澤さんが教えてくれます。取材でお会いした長澤さんの印象は、「まさに職人気質を絵に描いたような人物」でした。長澤さんは、「とにかく基本が大事。まずは自分の意見は置いておいて、言われたことを忠実にできるかどうかだ」と、語ってくださいました。郭さんは、長澤さんの意をくみ忠実に再現できるようになり、長澤さんが安心して仕事を任せてくれるようになったことを、とても幸せに思っているそうです。


中部経済産業局長賞 受賞作品と郭さん

中部経済産業局長賞 受賞作品と郭さん

 著しい成長を遂げた郭さんでも、簡単に受賞・合格したわけではありません。賞を初めてもらった名古屋市長賞(二等賞相当)のときは、自分自身の塗装作業に自信を持っていたものの、実際に作品展に出展する作品を作り始めると何度も失敗して自信を失いましたが、その度、長澤さんに励まされ、徐々に自信を取り戻し、長澤さんの期待にこたえようと心に決め頑張ったそうです。長澤さんの「郭さんは、名古屋市長賞を受賞してからグンっと伸びた」という言葉どおり、この受賞をきっかけに自分の塗装技術に自信と誇りを持った郭さんは、更なる技術向上のため、毎日の技能実習後に工場に残り、塗装練習場で塗装の練習を重ね、翌年、一等賞(最優秀賞)相当の中部経済産業局長賞を受賞しました。


 また、「会社がくれたせっかくのチャンスを逃したくない。自分の能力を試したいので、挑戦したい」と言って受検した技能検定随時3級では、普段作業している塗装以外も出題されるため、夜勤が終わってからパテ付けや水研磨等を長澤さんと共に練習し、見事合格することができました。


 技能検定随時3級に合格したとき、自分をとても可愛がってくれた母国のお祖母さんに一番に伝えたところ「勉強が苦手なのに、よく頑張った。すごいね」と大変喜んでくれた、と感極まってあふれ出しそうな涙を懸命にこらえつつ語る郭さんの姿から、家族と離れた異国の地で努力が報われた喜びはひとしおであったのだろうと思いました。


 郭さんに普段どういう気持ちで塗装しているか聞くと「自分の作っているものは車という値段の高いものに付ける部品で、もし車を買った人が満足するような仕上がりでなかったら悲しいと思うだろうから、きれいに塗装したい」と、かわいい笑顔から一変、真摯なまなざしで答える郭さんを見て、すでに技能実習生の域を超えて「職人」のように見えました。作品展の作品づくりや試験のための練習での二人三脚により、一層絆が深まった長澤さんと郭さんの関係は、「指導員と技能実習生」というより、「師匠と一番弟子」という表現の方がふさわしいように思えました。


熱心にそして楽しそうに研修生たちと語る伴さん

熱心にそして楽しそうに
研修生たちと語る伴さん

 どうしたら、このような素晴らしい技能実習生が育つのか、人材育成に力を入れているアイシン辰栄の総務部人材開発グループ人材育成チームチームリーダーの伴弥生さんにお話を伺いました。


 伴さんは、どうしたら研修生・技能実習生と工場の人との関係が上手くいくかを常に考え、制度を今後も上手に活用して企業のため、そして国際貢献に役立てることができるよう、日々工夫を重ね奔走しています。伴さんも日本語修得を重要視しており、郭さんたち1期生のときは手探りで色々と苦労したようですが、すでに3期生を受け入れ始め、研修生たちの効果的な勉強法を確立しつつあります。


 研修1年間は、集合研修修了後も各工場で必ず毎日1時間日本語学習(自習)の時間を設けてもらい、さらに毎月日本語の能力テストをして、成績の芳しくない研修生には再指導をしています。この再指導は、第一次受入れ機関である東西商工協同組合(以下「東西商工」)の譚海波さんが担当し、頼れるお母さんのような存在として、研修生たちとアイシン辰栄をつなぐパイプ役となっています。


 また、伴さんは、技能実習生たちに毎月1つのテーマを与え日本語で書いた「実習レポート」を提出してもらい、その日本語を添削した上で一人ひとりに感想を書いて返しています。実習生たちは、伴さんから返される感想を大変楽しみにしており、技能実習生同士で互いのレポートを見せ合ったりもするそうです。


 上位級(技能実習移行時に義務づけられている研修成果の評価のための技能検定基礎2級等よりも高いレベルの級)の受検の意義について、東西商工の国際営業部課長代理の小貫雅久さんに、お話を伺いました。


 上位級の受検は向上心・向学心がなくてはできませんが、それは日ごろから異国の文化・生活習慣に対して積極的に触れあい学ぶ姿勢があってはじめて生まれるものです。東西商工では、そういう姿勢を醸成するカギは日本語の上達であるととらえ、日本語修得について様々な支援を行っています。具体的には、JITCO日本語作文コンクール、外国人研修生日本語弁論大会、日本語能力試験への積極的な参加を促し、実際に作文コンクールでは優良賞受賞、弁論大会での優勝、日本語能力試験1級合格ほか、数々の成果を上げています。


 上位級の受検のメリットは、受入れ企業にとっては、外国人研修・技能実習制度を適切に運用し人材育成に貢献したという明確な実績が残せること、また技能実習生にとっては、実習の成果を客観的な規準で確かめられることで、これは制度の発展には欠かせない大切なポイントです。そうした認識から、東西商工では日本語修得支援と並行して、研修生選抜の段階から受入れ企業と研修生たちへ上位級受検の意義を説明し、合格者報奨金制度を設けるなど、上位級受検の支援体制の充実を図っています、と語ってくださいました。


スプレーガンでデビジョンバーを塗装する郭さん

スプレーガンでデビジョンバーを
塗装する郭さん

 郭さんの受賞・合格の快挙は、郭さんの並々ならぬ努力はもちろんですが、常にそばで励ましながら協力を惜しまなかった長澤さんや伴さんたちや、離れていても彼女を信じ応援し続けてくれた母国にいる家族など、郭さんを支えてくれた多くの人たちの存在も欠かせなかったと思いました。


 郭さんの受賞・合格は、実際に、後輩たちにもとてもよい刺激となり士気も上がっていると聞き、今後きっと第二、第三の郭さんが続けて出てくるであろうことを期待しないではいられない取材となりました。


 最後に、郭さんから後輩へのメッセージをご紹介します。「会社のルールを守り、日本語も仕事も真面目にやり、みんなと仲良くやっていくことが大切です。そして、自分の持っている力を出し切れば必ず成功するので、自分自身を信じて行動してほしいです」。