外国人研修・技能実習に関する成果事例
事例6 効果的な技能移転には、日本語の理解が大切 (愛知県田原市 愛知みなみ農業協同組合)
2009年2月
愛知みなみ農業協同組合(以下「JA愛知みなみ」)は、愛知県の南部、渥美半島先端に位置する田原市にあり、気候は、直接外洋に面しているため潮風による塩害を受けやすいが、暖流の影響で冬期も年平均気温16度と暖かいところです。1968年の豊川用水の通水により、用水型畑作と施設園芸の普及等近代的な農業が推進され、米、野菜、花き、果樹、畜産と多岐にわたり特色ある農畜産物を供給しています。
代表理事組合長の伊藤欣夫さん
今回、JA愛知みなみと研修生・技能実習生を受け入れている農家を訪問する機会があり、集合研修中でしたのでその様子を報告します。
研修・技能実習を担当している組合員相談部長の石井久登さんと調査役の小久保真澄さんから、まず初めに外国人研修制度を活用するようになった理由からお話をお聞きしました。
2001年に渥美町農協、赤羽根町農協、田原町農協の3農協が合併し、現在のJA愛知みなみとなっています。
調査役の小久保さん 相談部長の石井さん
研修生の受入れは、1994年から始まりました。当時、渥美町農協に愛知県農協中央会の方から外国人研修制度の紹介があり、最初だから試験的に受け入れてほしいという要望がありました。そこで、この地域で大規模経営に向け取り組んでいた園芸農家4軒に7名の研修生を受け入れたのが始まりです。その後、酪農を含め864名の研修生を受け入れてきました。毎年、3月と9月の年2回、約50名の受入れを行っています。現在では、施設園芸、畑作・野菜、畜産(酪農・養豚・肥育牛)農家140軒において275名が研修をしています。
田原市に近づくと、広大な畑の中に、ガラス張りの温室が多く目に付きます。この地方は、秋から冬にかけて「電照菊」栽培が盛んに行われ、夜ともなると温室に明かりが灯され、美しい田園風景が楽しめる有名なところです。
このような田原市で、施設園芸に携わる研修生たちは、観葉植物、菊、トマト、メロン等の栽培方法について研修をしています。
研修生全員
研修生は、江西省出身が一番多く、その他江蘇省、遼寧省から来ています。それぞれの送出し機関とは、常に連絡をとっており、江西省、遼寧省は豊橋に、江蘇省は名古屋に駐在員が配置されているため、毎月、巡回を実施して、彼らと直接に、連絡・調整をしています。
笑い話のようですが、江蘇省の領事館から、『JA愛知みなみ』は存在していますかという問い合わせがありました。領事館は、合併を繰り返してきているため、第一次受入れ機関としての確認を求めてきたものであり、JA愛知みなみとしても、何処で証明証をもらえばよいか困ったことがありました。
研修生の選抜方法については、140軒の農家のうち、15軒程度は現地で直接面接を行っていますが、大半の農家は履歴書による書類選考をしています。しかし、今まで大きなトラブルはありませんでした。受入れ農家からの要望を受け、送出し機関がしっかり選考してくれれば良いわけで、双方の信頼関係が良好であれば、問題の発生は少ないようです。今年は帰国した研修生に会ってみたいという農家からの希望もあり、現地で面接を実施する際、同行できるよう計画しています。
研修指導については、農業ですから同じ作物等を栽培しても、それぞれの農家によって作柄が違うため、同じ内容の研修とはなりません。農家戸数分それぞれの研修が行われています。そこで、各農家に、制度として決められているルールを守ったうえで、それぞれの研修を実施するよう指導しています。
たとえば、農業の特異性から業務には繁閑があり、農閑期に他の業務に従事しないよう、また、他の農家に手伝いをしないよう、ルールを守るよう指導しています。まずは、制度を周知することが大事ですとのことです。
日本語の授業風景
今年4月には、「受入れ農家連絡会」を設立しました。実りある研修を実施するために、研修制度のさらなる周知を図るとともに、研修指導、生活指導等、日々の研修・技能実習実施状況についての情報交換を行う場としています。
さて、集合研修の会場へ行ってみましょう。
今年の9月に入国した女性ばかりの研修生27名が、各農家の宿舎からそれぞれ自転車に乗って田原市の渥美文化会館へ集い、日本語の勉強をしていました。
講師は、日本語講師を委託している田原国際交流センターの斉藤康治先生でした。斉藤先生は、日常よく使う会話表現について、流暢な中国語で、日本語の持つニュアンスについても丁寧に説明し、研修生たちの理解を確認しながら授業をすすめていました。
研修生たちは、黒板に書かれた簡単な文章を、先生が指し示しながら読む発声をまねたり、ノートに書き写したりしながら、楽しく、質問を繰り返しながら真剣に取り組んでいました。
研修の成果をあげるには、日本語の理解力を高めることが一番ということで、日本語の教育には、力を注ぎ、各種の資料を作成し、理解が早まるような工夫をしていました。日本語に関する試験を、できるだけ受検する環境も与えており、多くの研修生が合格しています。また、JITCOが主催している「日本語作文コンクール」に、2007年度は41作品応募し、「絆」という作品が優秀賞、「私の夢」という作品が優良賞に選ばれました。2008年度は、27作品応募しました。
この集合研修において、受入れ機関が個々の農家であるため、研修生を家族の一員として、まず生活できるようにすることを目的に実施しています。
交通安全講習会の様子
特に、研修生たちは自転車に乗る機会が多いので、交通事故防止については、田原警察署の署員による交通安全講習会の開催をお願いし、また、渥美半島では、地震による津波の危険がある地域なので、田原市の防災対策室に、地震、津波の場合の避難方法や避難場所の確認、さらに、消防署の協力も得て、消火器による消火体験等の講習会を開催し、万一に備えての訓練を行っています。
見学した日の集合研修は、午前中で終了し、研修生たちは、それぞれ自転車に乗って各農家へ帰って行きました。
これまで多くの研修生の受入れを行っていると、いろいろな出来事がありました。
日本赤十字社へ義援金を届ける研修生たち
今年6月、中国において四川大地震が発生し、大きな被害が出ました。受入れ農家連絡会として義援金を募り、研修生、農家等から50万円を越える額を集め、日本赤十字社へ送金しました。研修生たちは、自分の出身地とは違う地域の被災であっても、母国に対する思いをこめた活動となり、この義援金活動は、NHKのニュース番組で紹介され、研修生、農家の皆さんそれぞれ、心に残る思い出となりました。
また、修了して帰国した研修生の中には、結婚をするということで、受入れ農家夫婦が中国へ招かれ、結婚式に出席したという微笑ましい話題もありました。
耕種農業・畜産農業職種の研修・技能実習は、研修管理について難しいところが多いと聞いていたが、JA愛知みなみの担当者の皆さんの努力により、各農家と連携を取りつつ良好に運営されている状況にふれる良い機会でした。
日本の「勤勉な心」を研修の糧に――愛知県田原市 有限会社 皿井園芸
渥美半島・田原市には観葉植物を主に栽培している大規模農園グループがあり、今回、その中で長年にわたり研修生・技能実習生を受け入れている有限会社皿井園芸(以下「皿井園芸」)を訪ねました。
社長の皿井則昭さん
皿井園芸は面積5、000坪のハウスで観葉植物(主にアンスリウム)を栽培している従業員数18名の有限会社です。
1993年に技能実習制度が創設され、その翌年に農協から試験的に受け入れてほしいとの要望があり、研修生の受入れを行うようになりました。
2000年3月に「耕種農業職種、施設園芸作業」が技能実習移行対象職種として認定されてからは、研修生からさらに技能実習生の受入れへと展開してきました。
社長の皿井則昭さんに、当時の様子をうかがうことができました。
当時、農協職員の中には、「これからの農業はある程度大規模経営をしていかないと、採算が合わなくなってしまう」と心配する声もあり、それを聞いた5名の仲間がハウスの増設を行い、計画的に規模拡大をしていくことにしました。大規模経営となると当然人手も必要となり、人材を募集しましたが、この地域では家族全員で農業を営んでいるため、別の農家で働こうとする人が少なかったのです。当然、皿井園芸も経営規模拡大に伴い、人材不足の解決が課題となりました。
このような時期に、外国人研修制度の話があり、グループのリーダーが「この制度は良いから、みんなでやりましょう」ということで、途上国の人材育成に協力する研修生受入れに向けての勉強を始めました。
1年ほど経過し、1994年に、グループ内の4軒の農家が2名、2名、2名、1名の計7名の研修生を中国の西安から受け入れることになりました。これが最初の受入れとなり、それ以来今日まで、中国からの研修生・技能実習生を、男性ばかりですが、常に4名が在籍する形で受入れを続けています。
社長の皿井さんと研修生たち
研修生の受入れを繰り返している内に、研修生には、日本の「勤勉さ」を学んで帰国してほしいと思うようになりました。
それは戦後の日本をここまで発展させたのは、日本人がよく働く『勤勉』な国民性によるものだと思っているからです。
中国では、皿井園芸クラスの会社では、社長は現場での仕事はしないようです。そこで、皿井さんは、知識・技能・技術はもちろんですが、勤勉さも修得してもらおうと、自らが先頭に立ち、従業員全員で一生懸命仕事をする姿を研修生たちに見せてきました。日本では当たり前のことでも、研修生にとっては作業内容以上に意味のあることだと思います。
観葉植物の世話をする胡紅平さん
いろいろお話を伺ったあと、ハウスへ案内していただきました。
長さ50メートル程度の大きな温室で、研修生たちは、各種の観葉植物に水かけ(灌水作業)を行っていました。
皿井園芸ではハウス内の作業が多く、鉢土作りから機械により苗を鉢植えする作業、水かけ、肥料の施し方、その他生産管理、出荷の方法まで細かく指導を受けます。
皿井さんは「この園芸作業の一番難しい仕事は、『水かけ』です。水かけは、単に水を与えるだけではなく、病害虫はいないか、乾いているところはないかを見ながら実施することが重要で、2年目(技能実習生)から行います。『乾いているところは、丁寧に、かかりにくいところは特に丁寧に!』を心がけています」。
水かけ(灌水)作業の様子
出荷前のラベル書き
研修生たちは、水かけの他に、鉢に土壌を入れ、移植の準備をしたり、出荷の準備をする作業を、日本人の従業員と楽しく会話をしながら実習していました。
技能の習得を円滑に行い、成果を上げるためには、やはり日本語の理解力が重要となります。失敗をしても繰り返し根気よく会話し、理解をすることで語学能力の向上につながり、最終的により高度な技能の習得につながります。
こうして習得した日本語能力を、出荷の際のダンボール箱やラベルに観葉植物の品種名を漢字やカタカナで書き込む作業に役立てていました。
皿井さんの目指す勤勉さの習得は、日本語を深く理解すればするほど、研修生たちの心に通じていくものだと思いました。
機械化農業をマスターして――愛知県田原市 岸上 明
JA愛知みなみの紹介で、現在、「耕種農業職種、畑作・野菜作業」に研修生を受け入れている岸上明さんを訪ねました。
岸上明さんと研修生の魏英さん
岸上さんは、渥美半島で、冬はキャベツ500アール、夏はメロン100アールを夫婦二人で耕作してきました。しかし、それぞれの作物の栽培管理が大変で、高齢化に伴い経営規模の縮小が心配される状況となってきていました。そのような状況下で、外国人研修・技能実習制度を知り、今後は人材育成をしながら農業経営をしていこうと、2004年9月より研修生を受け入れています。現在は、中国江西省から2期生となる技能実習生の魏英さんが技能実習中であり、その様子を報告します。
岸上さんは、研修生を受け入れ始めてから5年になります。研修制度の意義を理解して研修生の受入れをしなければならないところですが、当初は正確に理解することは難しかったようです。JA愛知みなみや他の農家と相談したりしながら勉強をしていました。今年4月に、JA愛知みなみに「外国人研修受入れ農家連絡会」が設立し、研修生を受け入れる農家全体で、研修指導や生活指導、さらに研修制度についての意見交換ができるようになり、理解が深まってきました。その上、連絡会の役員をするようにもなり、今では他の農家から相談されることもしばしばあるそうです。
岸上さんは、中国からの研修生・技能実習生を受け入れている理由として「日本の農業がどのように行われているかを体験し、帰国後、中国が機械化農業になった時に、日本で研修したことを少しでも生かしてもらえれば・・・」との思いからで、中国の農業の近代化に研修の成果が役立つことを願っています。
技能実習記録
さて、岸上さんを訪問した日、魏さんは、朝から少し体調が悪く、技能実習記録には「有休」と書いてありましたが、快く質問に応じてくれました。
魏さんは、岸上さんを「お父さん」と呼び、岸上さんは、「英ちゃん」と呼び合い、まるで家族の一員であるかのようでした。魏さんは、近くの宿舎に他の農家の研修生たちと5人で一緒に住んでいます。宿舎でのリーダーを任されており、みんなで協力して買い物や食事をしたり、時には農家の家族の皆さんに中華料理をふるまったり、お母さんからお寿司の作り方を習う料理教室を開催したりと楽しく生活しています。
そこで、魏さんに、これまでの研修期間中に困ったことがありましたかと聞いてみると「半年間、1期生の技能実習生と共に生活をする機会があったので、実習や生活の仕方等を直接教えてもらえました。特に生活に必要な日本語が早く習得できたので、あまり困ったことはなく、毎日楽しく過ごしています」と笑顔で答えてくれました。
JA愛知みなみでは、毎年、3月と9月に研修生の受入れを行っており、岸上さんの場合、丁度6ヶ月間、2名の研修生の受入れを行うことで、そのノウハウを上手くバトンタッチしているようです。
岸上さんに、研修生に必要な資質について聞いてみると「露地栽培であるため、夏場の暑さの中での作業や、冬場の氷のはる朝のキャベツの収穫作業に耐えることができることです。そのような厳しい気候変化に対応できる体力のある人が好ましい」と話します。
岸上さんの研修生の選考方法は、主に書類選考で行っています。今後も要望をしっかりと送出し機関等に届け、希望する研修生の受け入れができるよう、事前連絡を十分に行い、選考を実施するとのことです。
積込み作業をする魏さん
さて、日頃どのような技能実習を行っているか聞いてみると、魏さんには、いろいろな農作業をするにあたり、なぜその作業が必要なのか、その後どのような世話をしなければならないかを事例を示して説明し、理解をさせているとのことでした。魏さんも分からないことはすぐ質問をして、解決をしている様でした。
最後に、魏さんに、何か日頃している農作業を見せてくださいとお願いをしてみました。急なお願いでしたが、岸上さんと相談をして、キャベツ等の苗を畑に移植する機械を、移動・運搬のためトラックに積み込むところを実演してくれました。最近では、この作業は魏さんの役割となっているそうです。危険の伴う作業なので、岸上さんは、近くで積み込み作業が安全に行われるよう見守り、時には注意を与えていました。
技能実習生一人という規模としては最小の農業分野の研修状況を拝見しました。魏さんの研修が成功裏に終わることを祈り帰途につきました。




