外国人研修・技能実習に関する成果事例
事例4 “理想の研修”のための一貫した学習プログラム
(徳島県板野郡 阿波ネット協同組合)
2009年2月
阿波ネット協同組合(以下「阿波ネット」)の代表理事田中裕之さんは傘下企業のひとつ、株式会社アスカ(以下「アスカ」)の代表も兼ねています。
写真撮影が趣味という
代表理事の田中さん。
後ろはご自身が撮影したヒマラヤの写真
阿波ネットが研修生の受入れを開始したのはわずか約4年前。その日の浅さにもかかわらず、派遣前教育から継続学習まで、一貫した取り組みとその充実ぶりは目を見張るものがあります。
その根底には、田中さんと、田中さんの全幅の信頼を得て実務を仕切る真椙(ますぎ)清事務局長のお二人が掲げる“理想の研修”があります。企業の技術をきっちり継承し、将来につなぐ地固めをする、外国人研修・技能実習制度はそのための大切な要です。それには、派遣前から研修、技能実習まで、日本語教育のみならず全ての過程を手を抜かず、質を追求していくことが必要だと考えています。
では“理想の研修”を実現するための布石とはどんなものか、真椙さんにお話を伺いました。
事務局長の真椙さん
<派遣前教育>
選抜から研修まで、送出し機関と連携し、徹底した派遣前教育を実施
阿波ネットはベトナムから研修生を受け入れています。余談になりますが、田中代表理事がベトナムに行ったとき、ベトナム人のバイクの乗り方がとてもきちんとしていると感じ、ベトナム人びいきになったとのことです。
まず研修生の選抜ですが、機械の専門学校か工業短期大学卒業者の中から候補者を選びます。応募には学歴・職歴書、出身県の推薦状、健康診断書の提出を課すそうです。
最初の選抜で実際の採用人数の約1.5倍の人数を選んで研修を行い、1ヶ月後最終選抜をします。最終選抜には、日本語のテストとクレペリン検査をし、そして折り紙と「小豆の移動」(制限時間3分で、紙にかかれた円の中に小豆を入れる)をしてもらいます。折り紙と小豆の移動は、手先の器用さを見るためとのこと。なお、最終選抜に落ちた人には1ヶ月分の手当をちゃんと支払い、収入を保障するそうです。
真椙さんが作成した日本語テスト
ちなみに日本語テストは真椙さんが作成しています。
お揃いの制服で受ける派遣前教育
この期間に日本語への興味を喚起
選抜された研修生候補者たちは、日本から送られたお揃いの制服を着て研修を受けます。これは、来日したその時から、企業人としての自覚を持ってほしいからだそうです。
ホーチミンでの派遣前教育風景
派遣前の日本語教育は、真椙さんが選んだ日本語のテキストと機械用語集などを使って行われます。今の課題は、もう少し漢字がわかるようになることと、普通の日本人が聞いて理解できるような発音を身につけることだそうです。ただし、この期間の日本語教育で真椙さんが重要視しているのは、いかに日本語に興味を持たせ、日本語に取り組む姿勢を作るかということ。「真剣に取り組む姿勢があるのかどうかが一番重要です。会話の力は来日してからでも身につけられます」とのことです。
基礎2級実技試験の手順書
手順書の拡大写真。機械のパーツ名が写真で見てわかるようになっています
<集合研修>
聞いて動いて話す-集合研修の日本語授業
気持ちを落ち着かせることも目標です
集合研修は、公民館を借りて真椙さんのカリキュラムのもとに行われます。
真椙さんは以前、JITCOの「日本語指導セミナー」に参加して、そのときの体を使った授業方法を目にし、やはりこれだ!と感じるものがあったそうで、目の前にある物を使い、絵を見せ、体を動かしながらの日本語の授業を工夫しています。
集合研修の1ヶ月間はとても重要な時期だと真椙さんは考えています。「最初はざわざわした感じでも、挨拶、マナー、食器の洗い方、掃除の仕方などを一から教えてあげると、そのうちだんだん落ち着いてきます。この1ヵ月間は、日本になじんでいくのにちょうどいい期間。だからとても重要です」。
なお、集合研修の間に、研修生個々人の資質、気質などをきちんと把握しておくことも大切な布石。几帳面な人、ちょっとちゃらんぽらんな人、日本語ができる人・・研修生が現場に入ったら、その資質・個性をいかに役立てていくか。その見通しを立てるのもこの時期だそうです。
<継続学習>
企業に入ってからの継続学習も組合と企業が連携して進めています。ここでは特に技能検定試験対策をご紹介します。
『手順書』を基に研修生同士で技術を伝授
技能検定試験の模擬試験も独自に作成
阿波ネットは技能検定試験の対策も組合主導で行い、その方法もユニークです。
まず、実技試験対策ですが、教材として日本語で書いた『手順書』を作ります。それを作業に慣れている研修生に日本人指導員が説明します。その説明を受けた研修生は、今度はその手順書をベトナム語に訳して他の研修生に教えます。
この方法は日本語の勉強になるだけでなく、なにより研修生たちが自ら学んでいくという自主性が持て、また連帯感も育むことができ、とても参考になりました。
そのほか学科試験の対策としては組合で模擬試験を作り、実技の練習とあわせて試験の1ヶ月位前から毎日勉強するそうです。
<現地の専門学校とネットワーク構築を>
本当に勉強したい人に来てもらいたい
現地の父兄会で親睦を深めることも
今、真椙さんが力を入れて進めていることのひとつに、現地の専門学校と阿波ネットとの連携です。日本で本当に研修したいと思っている人を集めるためには専門学校との信頼関係を築くことが必要だと考えています。そのため、真椙さんはベトナムに行った折に、阿波ネットの研修生たちの母校に彼らの写真を持って訪れ、日本での彼らの状況を報告したりもするそうです。
研修生募集にあたっては、今、日本にいる技能実習生が自分たちの母校に『便り』を出してくれて、その結果、たくさんの後輩が応募してきてくれたこともあったそうです。
なお、阿波ネットでは、年に1度、研修生たちの父兄、送出し機関と日本での受入れ企業のスタッフが一堂に集う父兄会を現地で催しています。
日本で暮らす息子さんたちの近況報告を行いますが、遠路はるばる10時間もかけて参加する父兄もいるとのこと。
ホーチミンで行われた父兄会
将来は、父兄を日本に呼んで、実際に研修したり働いたりする場を見てもらいたいとも思っています。
「実のある研修と企業の将来を考えるとそこまでやっていい」。真椙さんはそう言い切りました。
人と機械と資金、この3つのものを動かすのにはいい加減なことはできない、だからじっくり土台を作ってから前に進んでいきたいと真椙さんは言います。
その土台作りの中に日本語教育もしっかり組み込んで、派遣前から周到な計画のもとに進められる阿波ネットの研修プログラム。
企業が磨き上げてきた「技術」を後世に伝え、人と企業の将来を築いていくための“理想の研修”が確かな形でここにあることを実感しました。
日誌でコミュニケーションをとる真椙さんと研修生たち

真椙さんは、研修生たちに日誌を書いてもらっています。製造管理能力がつくようにと、その日の製造数も記すように言っています。文章の書き方がわからない人には、「○時から○時まで○○をしました。○個できました」と模範文を書いてあげると、それを参考に自分で文を作れるようになるとのこと。
内容がわからないところは、「真椙はわかりません」などとコメントを書いて返すと、次にそれに応えてまた書き入れてくるそうです。
組合主導のもと、各社の個性を生かした教材作成
株式会社アスカ/阿波スピンドル株式会社/株式会社栄工製作所
阿波ネットの傘下企業は、産業機械部品や半導体製造装置部品を製造する株式会社アスカ(以下「アスカ」)、スピンドルやベアリングなどを製造する阿波スピンドル株式会社(以下「阿波スピンドル」)、ステンレス鋼材の加工をする株式会社栄工製作所(以下「栄工製作所」)の3社です。
組合主導のもと、各社のニーズに合わせて研修指導や日本語指導の方法をいろいろ工夫しています。
研修生にも日本人にもわかりやすい『作業手順書』を各社で作成
3社それぞれが『作業手順書』を作っています。アスカは、カラー写真を使って作業のポイントが一目でわかるようにし、説明の日本語も簡単なものにして、漢字の読み方もつけてあります。
このような「簡単な文章」は、実は日本人にとっても便利なもの。どのように説明すればいいかがわかるからです。そして研修生たちは、作業をしながら説明を聞くことで日本語も覚えていくことができます。
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作業手順書(アスカ) |
作業手順書(栄工製作所) |
『標準指示書』で使う表現を統一。言葉が覚えやすくなり、作業効率も上がります
標準指示書(アスカ)
現場では例えば、ボルトを「しめる」と言ったり「まわす」と言ったりします。同じ内容を表すのに複数の言葉があるわけですが、研修生たちにとってはその全てを覚えることは大きな負担です。そこで、使う言葉を制限し、覚える範囲を狭くしてあげたいと考え、『標準指示書』を作っています。言葉を統一することで、研修生たちも理解がはかどり、ひいては作業効率も上がるというわけです。左の表はアスカで作った、工場でよく使う言葉をまとめたものです。
方言も入っていたり、ベトナム語を書き入れる欄もあります。組合の真椙さんはこれを『標準指示書』として組合でまとめて体系化したものを作りたいと言っています。
用語リストは写真入りで一目瞭然
工具などの写真入りリスト(アスカ)
アスカでは、カラー写真付きの工具リストを作っています。目で見てすぐに理解できるようになっています。
不具合発生防止のための説明書や製品出荷手順書。写真と簡潔な言葉でわかりやすく
不具合発生防止のための
マニュアル(阿波スピンドル)
出荷手順書(阿波スピンドル)
阿波スピンドルでは、製品の不具合発生を防止するために、きめ細やかなマニュアルを作成。不具合とはどんな状態なのか、どんな点に注意するのかが写真と簡潔な言葉でわかりやすくまとめられています。
また、製品の出荷手順書なども同様に、写真を使って、これを見ればだれでもすぐに作業ができるようになっています。
研修生たちは、作業の内容と言葉をあわせて覚えていくことが容易にできます。技術の修得と日本語の習得が表裏一体になった理想の言葉の習得方法といえます。
技能試験用の実技用教材は平仮名表記に
実技テスト加工手順指導書(栄工製作所)
栄工製作所では、技能検定試験の実技試験対策にも独自の教材を用意しています。
全部平仮名表記にして、指示の内容がすぐにわかるようにしたもので、この加工手順指導書と図面と加工材料を用いて、指導員が1ヶ月位前から実技の指導を行うとのことです。
~3社の方たちのお話から特にお耳に入れたい話をご紹介~
アスカ・専務取締役の田中義浩さん
■アスカ・専務取締役 田中義浩さん
研修生に指導することによって、
日本人も自らの成長を実感できます
研修生が入ってよくなったことの一つに、日本人も成長できるということがあります。それまで評価される一方だった人が、研修生に指導することによって今度は指導者としての自覚を持ち、また、人との接し方も学んでいきます。例えば、中にはもの覚えのよくない人もいますし、短気な人もいるわけですが、そういう人にどのように接していくかとか。
そしてまた、指導することによって自分の能力の向上や成長を客観的に捉えることができるようになります。
帰国する1ヶ月前は技術の特化をします
帰国を控え、実習に励む技能実習生
我が社では、帰国する前の1ヵ月は、本人が希望することをやらせてあげています。
例えば、機械のプログラミングがしたいといえば、それを修得できるように支援します。3年間勤めあげたご褒美です。
阿波スピンドル・品質保証課課長の
原田和夫さん
■阿波スピンドル・品質保証課課長 原田和夫さん
最初の1ヶ月は日本語と検査作業だけです
研修生には最初の1ヶ月は機械に触らせず、検査作業を徹底的にさせます。良品、不良品を目で見て区別ができるようにするのです。この1ヶ月間は、日本語を半日、軽作業を半日というプログラムで行います。
日本語は、小学校低学年の教科書から日本の生活習慣の内容を取り上げたり、また漢字の唱和なども行います。ベトナム人ですが、日本語能力試験2級の合格者もいます。
技能実習作業風景
作業に必要な言葉、専門用語などは、写真と手順をまとめた教材『出荷手順書』を作って研修します。最初は口だけで説明していたんですが、これではだめだと思って、途中から作り始めました。こうすると、専門用語は大体1年ぐらいたつと理解できるようになります。
栄工製作所 営業部部長の岡田剛さん
■栄工製作所・営業部部長 岡田剛さん
研修生と社長の奥さんが一緒に畑作り
パートの女性も研修生の日本語の先生です
コミュニケーションということでいえば、研修生と社長の奥さんが毎週土曜日、工場の横にある畑で一緒に野菜作りをしています。研修生がベトナムから野菜の種を持ってきていて、栽培することになったんです。
研修生たちは毎日その日にどんなことをやったか日誌に書いていますが、それを添削するのも社長の奥さんです。
栄工製作所の慰安会
あと、我が社はパートの女性がみんな面倒見がよくて、休み時間なんかしょっちゅう研修生たちに声をかけていろいろ話をしてくれるし、食事の時も何かと世話をしてくれます。そのせいか、研修生たちも日本語が早く上手になるようです。
焼き肉パーティーも時々します。肉は日本人持ち、研修生は野菜とご飯持ちというのがわが社のスタイルです。






