外国人研修・技能実習に関する成果事例
事例3 良い日本の印象を持って
(静岡県静岡市 静岡人材育成事業協同組合)
2009年2月
歌川広重の東海道五十三次「由井」で有名な、江戸と京を結ぶ東海道の宿場町として発展してきた静岡県静岡市清水区由比で、技能実習制度を積極的に取り組まれ成果をあげている「静岡人材育成事業協同組合」(以下「静岡人材」)をお訪ねしました。
理事長の稲葉慶太さん
静岡人材のある由比は、人材が過疎な地域で、その当時、日本で第2位の過疎率を誇っていたため、美術館を建てたりして町の魅力を高め、人が集まるよう計画してきました。そのような状況の中、この制度を知り、当初、「由比町商工会」が、受入れ団体としてスタートし、その後、「清庵人材育成事業協同組合」を設立し、「静岡人材育成事業協同組合」に名称変更を経て、現在に至っています。
2001年9月に設立し、翌年から研修生の受入れを開始しました。加熱性・非加熱性水産加工食品製造業、缶詰巻締、水産練り製品製造の各職種において、これまで中国から傘下企業16社の研修・技能実習生215名の受入れを行ってきました。現在では15社101名の研修生たちを受け入れています。
企業によっては、日本の高い技術が外国へ流出してしまうからということで、この制度を活用していないところもありますが、当組合傘下の企業は、これまで積極的に取り組んできました。
特に、静岡人材では、缶詰巻締職種で受入れを行っている企業に、技能実習後半において、技能評価試験の上位級である専門級の受検を奨励しています。傘下企業の駒越食品株式会社といなば食品株式会社の技能実習生が受検し、多くの合格者を毎年出しています。これまでの合格者は、次表に示すような結果です。
このような上位級の合格者に対して、JITCOは「外国人技能実習生修得技能評価奨励事業」を実施し奨励金の支給を行っています。
JITCO認定評価職種である「缶詰巻締」は、外国人技能実習制度の移行職種として、1994年に認定され、社団法人日本缶詰協会(以下「日本缶詰協会」)が試験実施機関として認定されています。
当時は初級の評価試験だけでしたが、その後、2002年に中級試験と専門級試験が追加認定され、静岡人材では、2008年度までに102名の技能実習生が上位級に合格して活躍しています。
単位:人 |
||||||||||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||||||||||
専門級合格状況 |
食料缶詰において缶詰巻締技術は、缶詰を製造する時の基盤技術として活用されています。この缶詰巻締技術に関する検定・資格制度としては、日本缶詰協会が定めている「缶詰製造技術者資格認定制度」があり、広く普及・利用されています。毎年、缶詰業界で働く技術者の再教育を含め資質の向上を目的に実施されています。
この認定制度には、巻締主任技術者・品質管理主任技術者・殺菌管理主任技術者の3種類があります。その中で、特に「巻締主任技術者資格認定制度」の下位級として、外国人技能実習のための「缶詰巻締」職種がJITCO認定評価試験として整備されました。
缶詰巻締試験において、「巻締密封」という技術は、缶詰の中に空気及び微生物等の侵入を防ぎ、貯蔵中の変質、腐敗を防ぐことによって長期の保存に耐えるようにすることです。
専門級試験風景
(右はセミトロシーマー)
二重巻締断(拡大図)
この巻締密封には、二重巻締機(セミトロシーマー)によって行われます。金属製の胴と蓋をうまく折り曲げてロックするわけですが、堅い物質を無理に折り曲げ、蓋をするので相当な力を要し、いかに機械でやるといっても一遍にはできず2回の締め方で行われます。このロックの構造が二重になっているので二重巻締といわれます。また、金属同士のロックだけでは密封が不完全であるので、必ずロック部分にはシーリングコンパウンドと呼ばれるゴム質が入ります。これは巻締する前には蓋に付いているものです。
これらの作業を円滑に行い、また、完全な巻締をつくるためには、事前の機械の調整は人の手でやらなければなりません。この一連の調整方法と巻締作業及び製品検査方法が実技課題となっています。
静岡人材理事長の稲葉慶太さんは、「上位級の受検の目的は、日常の研修・技能実習がマンネリ化するのを防ぎ、日頃の研修を活性化するためであり、また、技能実習制度本来の目的を再認識するためであります」とのことでした。
事務局長の松永さん 萩野さん
今後も、団体としては上位級受検にあたり、研修生たちに対して、①日本語の習得のための日本語指導員の派遣、教材の配布を行い、まずは日本語教育の徹底を図る。②技能実習生のスキルアップのための指導を適格に行う。③技能実習計画の中に、上位級の合格を考慮した実習内容を取り入れサポートを行っていくとの方針を持っています。
また、傘下企業に対しては、技能実習生が上位級受検をするメリットについて、①技能実習生は、上位級に合格すると、実習に対する意識が向上し、積極的に後輩の指導にあたることができるようになる。②企業としての教育内容を再確認できる。③組合全体のレベルアップも図ることができるという効果があることを十分説明していく」とのことでした。
親睦会にて
この缶詰巻締職種の試験実施機関である(社)日本缶詰協会技術部の曽根原宏泰さんは「上位級受検を検討している受入れ企業については、お問い合わせがあり次第、学科試験の模擬試験問題及び実技試験の手順等の資料を配付すると共に、試験に関する疑問点・不明な点等についてもお答えしています。技能実習生を受け入れておられる企業が、技能実習生に対し、日本でしか学べない技能・技術を指導していく過程で、上位級を上手く活用してほしいですね」と話してくださいました。
最後に、静岡人材としての今後のモットーについて、稲葉さんは、「研修・技能実習制度は、総合的な教育・訓練をする制度です。その上、研修生たちを受け入れることにより、静岡人材傘下企業の職員も進化しモチベーションが高まる。そこがやりがいとなるところです。研修生たちに、『日本は、いい国だった』『来て良かった』という印象を持ってもらうことが、静岡人材としての達成感であり、印象を良くして帰国してもらうことが究極の目的です」と、力強く話されました。
今後、静岡人材には、新しく缶詰巻締職種の研修生たちを受け入れる企業もあり、それらの企業にも上位級受検は必須にすると伺いました。ますます上位級へのチャレンジがすすめられ高い技術・技能を持って帰国する研修生たちの顔が目に浮かびました。
専門級を受検して――静岡県静岡市 いなば食品株式会社
工場長の松久保さん
技能実習生の王さん(左)董さん(右)
いなば食品株式会社(以下「いなば食品」)は、静岡県静岡市清水区由比北田にある「まぐろのツナ缶詰」等各種缶詰の製造・販売、ペットフードの製造・販売、健康食品の販売を行っている従業員173名の会社です。
外国人研修・技能実習制度については、2002年から受入れを行い、現在では研修生10名、技能実習生8名を受け入れています。
これまで「缶詰巻締」職種のJITCO認定評価試験の専門級を積極的に受検し、79名の合格者を出しています。現在研修中の8名の技能実習生たちは、2008年7月に専門級を受検し、見事全員合格をしました。11月には帰国を控えており、会社、研修生たちも忙しい中、上位級の受検の取り組み状況についていろいろとお話を伺いました。
工場長の松久保昭人さんに、研修・技能実習制度の受入れ状況及び専門級の受検を奨励している理由をお聞きしました。
「当時、由比工場の現場で働く女性職員の平均年齢は57歳であり、いろいろと職員採用の方法・手段を考えていましたが、なかなか採用ができず困っていたところ、この研修制度に巡り会いました。資料を取り寄せ検討を重ねた後、研修生の受入れに挑戦することにしました。初めはいろいろな抵抗、苦労もありましたが、結果としてはひとまず成功してきていると思います。
缶詰製造技術の中で、実技課題になっている巻締という技術は、一番か二番目に重要な技術であり、その技術を3年間の研修中に、初級と専門級において2回受検します。この作業は大事な技術であり、缶詰の生命です。いくら良い素材を使っていても、缶詰の巻締が悪いと中の素材は腐敗してしまいます。缶詰職種の技能評価試験に合格すれば、食品の加工から、殺菌、巻締、出荷まで一連の缶詰製造工程は理解できるようになります」
若くて明るい表情の研修生たちを受け入れたことによって、職場の雰囲気が多いに変わったようです。そのうえ、専門級を受検することにより、缶詰巻締という特殊技術を身につけ、缶詰製造、食品製造について理解を深めることができるようになるため、上位級の受検については、会社をあげて支援をしています。
では、職場の中では、どのような受検対策をしているのか聞いてみたところ、二つありました。
まず、研修計画に基づいた技能・知識の指導については、各職場の職員が担当していますが、専門級の受検については特別な対策がとられています。
具体的には、専門級の受検日程が決まれば、実技試験に用いる巻締機械及び使用工具を準備し、研修生の練習時間を計画し、ひとりひとり確実に実技課題の練習に取り組めるようにします。また、学科試験対策については、現在、外国人研修生向けの教科書がなく、日本缶詰協会が発行しているテキストを使って勉強をします。そのため専門用語を正確に理解するには難しく時間がかかりますが、研修生たちは、根気よく一生懸命勉強するようになります。
もう一つは、優秀な人材を受け入れていることでした。
担当者が、現地で面接を行い、企業体質にあった研修生の選考を直接行っています。面接のポイントとしては、やはり食品会社であるため、清潔感を重視し、頭髪、服装等、「みだしなみ」が常日頃きちんとしている者を選抜しています。
ここで、技能実習生の董穎(トウ エイ)さんと、王純清(オウ ジュンセイ)さんに、専門級を受検した感想について伺いました。
「合格の知らせを受けたときは、大変うれしかったです。専門級の実技試験の練習において、巻締機械の操作手順、使用工具の取り扱い等を覚えるのに苦労をしました。また、難しい言葉があり、理解するのに時間がかかりました。しかし、先生はゆっくり丁寧に教えてくれたので良かったです。専門級試験を受けるにあたっての心構えは、普段通りの気持ちを持つことが肝心です」とのことでした。
専門級に合格した技能実習生
最後に、松久保さんは、「当社は、中国の青島にペットフードの工場があり、今、4名の技能実習修了者が管理職として勤務しています。日本の缶詰の品質は一番厳しいわけですから、その技術を日本で覚えたことが、彼女たちのステータスとなっています。この制度がある限り、制度の趣旨を正確に理解して、研修生たちへの質の高い技能移転だけではなく、いなば食品は、研修生たちを受け入れている模範企業になるよう努力していきたい」と、力強く言われました。
研修期間を含め3年間、いなば食品における研修生たちは、それぞれの希望を抱いて研修を受けており、その自信を持った笑顔は、今後も長く受け続けられていくことを確信しました。




