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バックナンバー(2006年度)

事例5 現場に即した日本語の習得と日本語能力試験受験に向けた日中のチームワーク
(オカモト株式会社 静岡工場)

2007年1月



 今回訪問させていただいたオカモト(株)静岡工場(以下、同社)は、静岡県のほぼ中央に位置する大井川のほとりの広大な敷地に展開し、プラスチック製品製造を業としています。正門をくぐると建物および工場までの広々としたエントランスが印象的です。訪問当日は、残念ながら見ることはできませんでしたが、天気が良いと富士山が背後に見え、来日した研修生・技能実習生にも好評だそうです。工場のわきでは、フォークリフトが出来上がった製品を搬送中でした。同企業はISO14001を取得し、環境マネジメントにも積極的に取り組んでいます。東京にある本社は、香港に貿易部門を置いており、中国とは長いおつきあいの実績があります。研修生・技能実習生たちは、同社静岡工場から1キロ以内の距離にある寮より自転車で会社に通いながら、プラスチック成形を学んでいます。


正門

オカモト株式会社正門前


  当日は、静岡工場統括マネージャーの西村氏、総務人事課の伊藤氏にお話をお伺いすることができました。同社では、特に研修生・技能実習生の安全に配慮しており、関東通信事業協同組合の集合研修終了後、配属された研修生に対して、二手に分かれて日本語教育を行っています。総務人事課が日本語の基礎教育を引きつづき行い、配属された現場部門が安全に関する日本語教育を行っています。「特に、安全に関する分野では日本語の理解力を100%に近づけないと。 慣れるまでは絶対に危険な作業はさせません。」と西村氏。安全作業ルールを徹底させ、現場の状況とマニュアルを対比しながら、根気強く説明を行っています。この姿勢が、研修生・技能実習生の気持ちを引き締めるのだと思います。


  日中間で使用する機械が異なるため、まず機械に触れることからスタートし、慣れた頃から徐々に作業をレベルアップさせています。研修生・技能実習生の中には、日本人とレベル的に大差のない技量を持つ人もいるそうですが、わからないところは質問するという習慣がないようです。よってわからないことを日本語で質問できることが重要になってきます。

 研修生・技能実習生は、同社の管理人が常駐している寮に滞在しており、トイレ・風呂は共有ですが、一人一部屋を与えられ、自炊しています。来日当初は、寮の規則を徹底するのが難しいようで、ゴミの分別などを当番制で行っていますが、なかなか分別しきれないそうです。問題を発見した場合は、その都度注意をするようにしており、企業と研修生・技能実習生が合同で定期的にパトロールも行っています。テレビは、寮の共用ルームに1台設置し、中国の放送も受信できるようになっていますが、技能実習生になると自室にテレビやパソコンを設置する人もいるそうです。昨今、日本の若い世代のマナーの乱れが指摘されていますが、「研修生・技能実習生は、皆、日本人以上に丁寧に挨拶ができる青年たちばかり。」とのことでした。

 日本語の学習には、(1)技術・技能の円滑な移転のためには欠かせない、(2)現場の安全確保のために欠かせない、(3)滞日中に目標を持たせる、という趣旨で力を入れています。全員を対象に、日本語能力試験受験を奨励しています。受験料は、組合と企業で半分ずつ負担しています。受験級としては、研修生は4級、技能実習1年目は3級、技能実習2年目は2級が目標です。12月の受験日に向けて9月から週に1回の勉強会を開催しています。市販の教材を参考にしながら同社が作成したオリジナルの教材を使い、文法、読解、語彙の講義とヒアリング、小テストを行っています。研修・技能実習中は日本語を使うので、研修生・技能実習生にとって会話は問題ないそうですが、 文法などの学習は難しく、教える側も普段、何気なく使用している日本語を理論的に説明するのは難しいそうです。勉強会では、日本人社員が辞書を調べながら身振り、手振りで説明すると、わかった者がそれを中国語で仲間に説明していくという日中のチームワークとなっています。がんばる研修生・技能実習生がいると、自然に勉強会全体が引っ張られていくそうです。上位級を目指す者になると、やはりやる気と集中力が違い、質問も多くなります。もちろん日本人社員も中国語の学習に努めています。結果として、過去2年間に2級合格者2名、3級合格者11名を輩出しています。上記のような支援体制があっても、研修や技能実習を続けながらの受験および合格は、本人および同社の並々ならぬ尽力の賜物と思われます


  上記以外に、日本語の学習を徹底して良かったことは、(1)現場では機械の音などにより、必然的に指導員の指導の声が大きくなるので、指導員が言っている内容がわかれば、研修生・技能実習生たちは怒鳴られていると感じることもなく、感情的なしこりを残すことがない、(2)指導員からの指導に対して、わからない場合は質問することができる、などだそうです。


参考資料   スケジュール

山と積まれた参考資料

 

勉強会のスケジュール・講義内容


日本語能力試験の受験会場は静岡大学であるため、高速バスを利用し、同社の社員が引率しています。ある年などは、受験する研修生・技能実習生全員が乗った結果、高速バスが満員になってしまい、その後のバス停はすべて通過となってしまったそうです。昨年は28人が受験しました。取材時点では、今年は43人が受験する予定なので、引率も2回に分けて行う予定とのことでした。また、会場は食事には不便なので、昼休みには引率者が全員を集めて弁当を配布することにしています。同社では、日常生活、現場での安全指導から日本語習得まで誠に細やかな配慮をされており、敬服の至りです。


西村氏伊藤氏

お話をお伺いしたマネージャーの西村氏(右) と伊藤氏

 

 日を改めて、受入れ団体となる関東通信事業協同組合の代表理事である平田氏、担当者の山田氏にお話をお伺いしました。

  同組合では、来日前の事前研修や選抜も重視し、いくつかの送出し機関と協力関係がありますが、特に大連の送出し機関を評価しているそうです。この送出し機関は、来日前に全寮制で3ヶ月間、300時間の事前研修を行っており、カリキュラムは日本語と日本事情となっています。日本語は研修・技能実習の知識習得のための手段となるので、ヒアリングを中心に行い、レベル的には日本語能力試験4級を目処に特訓しています。また、全寮制ということで、集団生活の適不適を判断することができ、そのことが、同組合および受入れ企業が訪中して、選抜を行う際の重要な判断要素となっています。同組合は、選抜を、(1)本人の来日の目的が明確であり、来日後の経験を将来にどのように生かすかという意志を有していることを見極める、(2)日本側として来日の目的を理解させる機会、と位置づけています。選抜時には、同組合が人間性を、受入れ企業が技術・技能を重視して試験を行い、最終的には送出し機関も含めて調整することとしています。

  来日後の集合研修では、都内の公的施設を利用し、日本語、日本事情、日本企業の考え方などを説明します。特に、「何故、今日の日本があるのか」、また受入れ先の状況や社内規則なども詳細に説明しています。来日する研修生・技能実習生はまだ若く、甘えもあります。「組合は、彼らの帰国後の人生も考慮しながら、客観的な状況を正確に伝え指導することを旨とし、受入れ企業が、研修生・技能実習生を喜ばせるようなことをするという役割分担をとっています。」という平田氏のお話は印象的でした。また、受入れ企業配属時に、日本語学習のためのオリジナルの参考書を渡すとともに、その後も通信教材を送付し続け、添削のやりとりを行うそうです。

 受入れ企業を巡回する際には、研修が計画どおりに進んでいるか、本人が研修に意義を感じているかどうかを中心に、研修実態の把握に努めているそうです。今後は、日本語教育について短時間でより効果的に行うために、来日後の集合研修時に教育を担当している日本語講師を中国に派遣し、中国側の日本語教師と打ち合わせを行い、一層の連携に努める予定です。
 
  お話をお伺いし、研修・技能実習制度の趣旨および意義を的確にとらえ、日々、前向きにご尽力されている代表理事や組合の皆さんの凛とした姿勢に、当方も身が引き締まる思いでした。


代表理事平田氏

関東通信事業協同組合 代表理事の平田氏