バックナンバー(2006年度)
事例3:研修生・技能実習生との信頼関係は一日にして成らず
(日頃の努力の積み重ねと環境が大切) (株式会社双葉)
近年多くの日本企業が中国に進出するとともに、中国からの研修生・技能実習生の受入れも右肩上がりの状況である。しかし、中国に進出した企業において日本人と中国人の関係がうまくいかず、撤退する企業も少なくはないと聞いている。一方、受入れた研修生・技能実習生と信頼関係が築けずに、苦労している日本側の受入れ団体・企業もある。ここで紹介する受入れ事例は、研修生・技能実習生との間に信頼関係を見事に構築している受入れ企業の事例である。
訪問させていただいた(株)双葉(以下、同企業)の所在地は東京の郊外であり、周囲は工場の点在する住宅地に囲まれ、のどかな雰囲気である。中央線で都心にも出られるため、技能実習生は、休日には池袋や秋葉原に足を運ぶこともあるようだ。東京合金鋳造工業協同組合の薛氏(以下、組合担当者)による、夏期休暇中の技能実習生に対する生活指導の現場に同行させていただいた。
まず、同企業のご配慮で、工場内を見学させていただいた。同企業の業種は鋳造業で、電力、鉄道車両、自動車、船舶、光学器械、産業機械などの様々な部品を製造している。設計も含めて製造することもあり、この業界では有名な企業である。夏期休暇中であり、機械は稼働していなかったが、整理、整頓、清掃が行き届いており、6S(整理、整頓、清潔、清掃、セーフティ、躾)を徹底させることで、品質管理が維持されるという基本を着実にこなしているように見受けられた。また、三現主義(現場に行き、現物を見て、現実を知る)をモットーとしており、6Sとともに工場内に掲示がされていた。もちろん鋳造業であるため、夏は工場内が高温になり、安全への配慮も欠かせない。同企業総務の米沢氏(生活指導担当、以下受入れ企業担当者)のお話では、(1)工場内の機械の使い方から就業規則まで、すべての資料を組合担当者が中国語に訳し、配布する、(2)高温作業を行う場所にはスポットクーラーを配置する、(3)熱中症対策にてスポーツ飲料を配給する、(4)フォークリフトの運転のための特別教育を全員受講させるなどの配慮をしているとのことであった。このような物理的に整備された環境により、技能実習生は安心して技能実習に励めるのである。同企業には現在、技能実習生が1年目、2年目合わせて10名おり、今年の11月にまた研修生を迎える予定でいる。

内に掲げられた掲示
次に、同企業の事務所にて、受入れ企業担当者にお話をお伺いした。同企業は、市内に4カ所の寮(借り上げも含む)を持っており、それぞれ3LDKの広さである。1回の受入れ時に4、5名程度受入れるので、研修生・技能実習生たちは共感できる同期がおり、助け合って生活をしている。1人1部屋を与えることを原則としており、けんかなどをしても適度な距離が保てるようにもなっている。長期の滞日生活であり、研修・技能実習のみならず私生活も一緒になるので、人間関係で多少のトラブルが出ても、個室に入れば1人になり、気分転換ができるよう配慮している。受入れ同期においてリーダーなどは特に決めていないが、生活する上で自然と決まってくるそうだ。食事は自炊で、冷蔵庫、炊飯器も1人1台供与しており、野菜などは近郊農家の直販で安く購入している。昼食は弁当持参の者、会社の弁当を購入する者に分かれる。盆休み、正月休み、ゴールデンウィークなど長期休暇の際は、組合や受入れ企業の担当者が寮に生活指導に訪れたり、組合の担当者の自宅に食事に招いたり、富士山、ディズニーランド、山梨県でのぶどう狩りに連れて行くなど懇親を深めている。休暇期間中は行く先の届け出を出せば、どこに行こうと自由ということになっている。技能実習生は、この他に、市のボランティアによる日本語教室に参加する、市の公共施設(プールやジム)を利用する、図書館で中国語新聞を読む、寮でDVDを見たりするなど、受入れ組合・企業の信頼の下、好きなように余暇を過ごしている。
研修・技能実習の指導面では、現場の工場長や課長が研修生・技能実習生に対して理解があり、指導は日本語で行っているが、日本人側も中国語の学習に励んでおり、その姿勢が技能実習生たちにも理解されている。来日後、研修中の作業のレベル、技能実習1年目のレベル、技能実習2年目のレベルをカリキュラム化し、身につける技能を明確化して示すことにより、研修生・技能実習生は目標を持ち、安心して研修・技能実習に取り組める環境になっている。一方、受入れ企業は、技能実習生たちの出身地と異なるが中国に合弁工場を持っており、訪中時に研修生・技能実習生と同年代にあたる日本人社員を同行し、中国への理解を深めさせている。それにより担当者以外の日本人社員と中国人技能実習生とのコミュニケーションも良好だ。また、技能実習生になると滞日期間が長くなるため、一時帰国を任意で認めている。今年は、ゴールデンウィーク時にその希望が重なってしまったため、管理部門は製造に支障を来すのではないかと心配したが、製造部門の責任者である工場長が理解を示し、現場がカバーした。このことが技能実習生たちからさらに感謝され、信頼関係を深めたことは言うまでもない。お互いの相互理解が作用し、良い雰囲気が形作られているため、結果として彼らは精神的に安定、安心してのびのびと過ごしている。物理的環境同様、精神的に安定した環境づくりに日頃から努めることも、信頼関係構築のために重要である。
企業を後にし、受入れ企業担当者および組合担当者が、夏期休暇中の生活指導のため、技能実習生の寮を訪問するのに同行した。ちょうど技能実習生数人が昼食作りの真っ最中であった。その後、他の技能実習生も集合して、全員で食卓を囲んだ。一人ずつ担当者から紹介されたが、実に彼らの個人状況(健康、中国の家族や家庭環境)について家族のようによく把握している。技能実習生たちも屈託なく、よく笑い、食べる。全員が20歳~30歳の揚州出身の男性である。揚州より日本の方が気候が良く、カルチャーショックやストレスもあまり感じなかったので、日本に来て太ったと口をそろえる。確かに皆、健康そのものであった。ただ、やはり家族のことは恋しいらしく、テレホンカードを使って週1回1時間は電話をしてしまうようだ。一人の技能実習生がゲーム機に取り込んだ家族の写真を見せてくれた。彼の結婚式の様子や来日後に生まれた息子の写真が何枚も入っていた。彼は、一時帰国した際に息子から「パパ」と呼んでもらえず、彼が日本に戻った後に、息子が男性を見れば、「パパ」と呼んでいるらしいと寂しそうな顔をした。日本では家族のきずなが薄れてきたと言われているが、中国の研修生・技能実習生は家族への愛情が深いことを再認識した。「研修・技能実習に関する心配はなかったか。」という当方からの問いに対しては、「中国とは反対に、物事の詳細が明確化、マニュアル化されておりわかりやすく、生活指導員、研修指導員ともに相談がしやすい雰囲気だったので、心配なく過ごせた」。との回答であった。確かに受入れ企業担当者は、技能実習生たちに対して丁寧に接しており、個人の希望を尊重している。この点も技能実習生が落ち着いて技能実習に励める理由の一つと思われる。昼食後も1名の技能実習生の希望で、受入れ企業の担当者は夏期休暇中にもかかわらず、海外送金のために銀行まで車に技能実習生を同乗させ、同行しておられた。組合担当者も技能実習生を自宅に招いて食事会を行うなど、日頃からコミュニケーションに努めておられる。また、技能実習生ともなるとかなり難しく大変な作業をこなすため、健康と安全が第一であり、長時間労働は控え、残業は多くても2時間程度だという。その分、技能実習生の希望に沿うよう、賃金や時間外手当は相場より高く設定している。そのためか、技能実習生たちは早めに帰宅し、夕食をしっかりとり、技能実習のオンとオフの区別がついているように思えた。昼食後は、組合担当者が各自の部屋の整理整頓状況をチェックした。また、技能実習生全員を呼び集め、「行動は自由だが、パチンコや繁華街などには行くのを控えるように」と話をし、彼らも当然のことのように頷いていた。

受入れ企業担当者(手前)と技能実習生たち
最後に、組合担当者よりお話を伺った。同組合では、(1)来日前に研修・技能実習制度についてしっかり説明を行い、来日後も説明通り行っているため、海外が初めての研修生であっても来日後不安を抱かないこと、(2)帰国技能実習生の推薦や家庭環境の調査などを経て、現地面接前の集合研修(半月)を行い、団体生活への適応能力をチェックすること、さらに受入れ企業が訪中し、その候補者を面接すること、(3)来日後は、集合研修を行い、そのための開校式、閉校式を行うなど集合研修および滞日期間にメリハリをつけていること、(4)集合研修時にJITCOの日本語教育支援事業を申請し、日本語教育を徹底することなどを、重視しておられた。帰国技能実習生の口コミのせいか、同組合が行う研修・技能実習を受けに来日したい若者が多く、選抜に困るほどであるとのことだ。
1日取材をさせていただいて、強く感じたことは、関係法令や規定等を遵守して受入れ、ふまえるところはふまえ、あとは個人の自由を尊重し歩み寄る姿勢が、国籍、習慣も異なる中国人技能実習生の信頼を勝ち得ていることである。彼らの口から「自由」という言葉が自然に出ていた。また、彼らの信頼と行動により、職場が活性化し、受入れ企業にとってもプラスの効果をもたらしている。一般に、中国人を雇用する日本企業に求められていることとしては、(1)目標を明確にすることにより意欲を持たせる、(2)職場の上下関係を私生活にはあまり持ち込まない、(3)コミュニケーションの姿勢を持ち続ける、(4)相手を信頼して任せるなどの項目が上げられている。同企業は自然体でこれらの項目をこなしておられるように思えた。技能実習生においては、全員が多少の差はあれ日本語もうまく、フォークリフト運転免許も取得し、途中帰国や失踪もない。受入れ企業と信頼関係を積み重ねながら、20歳~30歳の青年が多感で貴重な年頃を日本で有意義に過ごすことは、今後の日中間の交流に少しでも寄与すると信ずる。




