バックナンバー(2005年度)
事例13 現場リーダーの育成を目指して
-実践を重視した日本語教育と高度なカリキュラムの実施-
(羽生衣料縫製協同組合)
「あなた達はミシンで縫い物をするためだけに中国に戻るのではありません。現場の管理者になるために戻るのです。だから、いつも一つ上の段階を目指して研修・技能実習に励みなさい」
これは、羽生衣料縫製協同組合で海外研修生受入れ推進事業部を務める矢島部長の言葉です。
埼玉県羽生市にある同組合は、中国人研修生の受入れを始めてから6年が経過し、現在は80名の研修生・技能実習生を受入れています。事業規模の拡大を図る組合が少なくない中、同組合は、受入れ開始当初から、事業規模の拡大よりも適正な運営に重点を置き、「研修生を単なる縫製技術者ではなく、現場のリーダー候補者に育て上げること」を組合員の共通の認識としてきました。一方、研修生・技能実習生に対しては、「自主的に物事を学ぶことがいかに大事か」を繰り返し説明してきました。
同組合の研修生は、昨年より、来日前に通常よりも長い事前研修(6ヶ月)を受けていますが、実際に来日すると、事前研修のテキストに書かれている日本語の読み書きは出来るようになってはいても、日本人とのコミュニケーションの場面で障害を抱えることが多いようです。また、日本語の上達が早い研修生或いは技能実習生ばかりが通訳を務めるようになると、組合関係者と他の研修生・技能実習生のコミュニケーションが希薄となるばかりではなく、結果として日本語学習に身が入らなくなる者が出てくる恐れがあるため、組合では、試験のためではなく、実践のための日本語の学習を強く奨励しています。

全体研修の様子
具体的な取り組みとしては、リーダー格の研修生・技能実習生だけではなく、研修生・技能実習生一人一人に話し掛ける、説明の内容が理解出来たかどうかを聞く際に「分かりましたか」ではなく、「何パーセント分かりましたか」と聞くことで、彼女達全員が日本語を使う機会を設ける等が挙げられます。さらに、イベント開催時の通訳を技能実習生に交替で任せることで、必然的に日本語を学習する環境作りを提供しています。
一方、研修・技能実習では、縫製技術だけではなく、現場の管理者としてのノウハウを身につけさせるため、サンプルの作成等を行うとともに、製品として採用するために求められる基準についても繰り返し説明しています。矢島部長によれば、「来日したばかりの研修生は、ミシンで何かを縫うことは出来ても、製品として採用されるためにどこまで求められるかということは理解していません。しかし、求められる基準が理解出来るようになると、作業のスピードは速くなります」とのことです。
現在在籍する技能実習生の中には、デパートで売られるような製品の作成に携わっている者もおり、その中の一人からは、「自分が作った製品が実際に店頭に並んでいるのを見たことはないですが、(取引先が主催する)ファッションショーでモデルが着ているのを見たことがあります。その時は嬉しかったです」とのコメントがありました。

「羽生市綱引選手権大会」で優勝
上記以外では、マラソン大会の応援ボランティアや「羽生市綱引き選手権大会」等、地域のイベントへの参加を通じ、地域住民との交流を積極的に進めています。
2006年1月29日(日)には、第21回目の綱引き選手権大会が開催され、同組合の研修生・技能実習生のチーム「チャイニーズボス」が4年連続の優勝を果たしました。
上記の取り組みは、研修生・技能実習生に対する地域社会の理解を促進する意図で始められたものですが、研修生・技能実習生にとっては、息抜きになるとともに、綱引き選手権大会で優勝したことで団結力強化というプラスの効果をもたらしました。最近では、地域住民から「中国語を教えてほしい」といった要望が挙がっており、相互交流は一層活発化しています。
また、入国後の研修生対象の集合研修を組合全体に拡大した全体研修やクリスマスパーティー等を通じ、企業間の連携強化を図っています。全体研修では、羽生市役所及び消防本部、警察署といった自治体の協力を得ながら、防災や防犯、交通安全等の講義を実施しています。日本における防災・防犯や交通ルールについて不慣れな彼女達にとって、外国語版のパンフレット等を活用した講義は、非常に役立つようです。

初期消火訓練の様子
受入れ人数が多いため、組合規模で遠出をすることは困難な状況となってしまいましたが、研修生・技能実習生からの要望が高い富士山やディズニーランドの見学、花見は各社とも必ず実施しているそうです。
こうした組合側の取り組みは、組合と研修生・技能実習生の繋がりの強化とともに、研修・技能実習事業の適正化にも良い影響を与えています。実際に、同組合では、受入れ開始以来失踪者ゼロの実績を誇っています。
帰国生との関係も良好で、組合職員が現地選考会のために中国を訪問する際には、彼女達と再会しお互いの近況報告をします。帰国生の多くは、管理者への昇進或いは起業を果たしたそうです。最近では、仕事を通じた交流も進み、帰国生が在籍する送出し企業とのビジネス上の協力関係も始まりました。
現在同組合に在籍する研修生・技能実習生に対し将来の夢について尋ねたところ、「管理者になりたい」、「自分の会社を作りたい」という声が多く見受けられました。「単なる縫製技術者として現場に復帰するためではなく、管理者や会社の社長になるために、日本で学んだ技能・技術を活かしてほしい」という組合側の強い願いは、彼女達に届いているようです。




