外国人研修・技能実習に関する成果事例
事例1 ささえる心、こたえる技能(株式会社ループ)
2007年11月
豊かな自然と歴史に恵まれた県都である福井県福井市から、内装という分野において日々感性豊かな商品とサービスを全国に提供し続けている株式会社ループは、第一次受入れ機関である北陸対外事業協同組合による指導のもと、内装仕上げ施工職種による中国人研修生の受入れを行っています。
元来、同社は社員の技能修得に対し高い関心を持っており、今回取材した実習生による上位級受検も、「実習生にも日本人の従業員と同じく、技能を高める機会にチャレンジさせたい」という方針から始まった試みでした。今回の成果は、自分の可能性に挑戦するべく奮闘した実習生達と、そんな実習生達のチャレンジを支える企業、第一次受入れ機関、そして地元の職業能力開発協会が一丸となり実現したものです。
「“お金では買えないもの”を持って帰って欲しい」
株式会社ループの浅田俊幸代表取締役は、「自分達の会社で受け入れた研修生・実習生には、帰国する時に何かひとつでも、他にかけがえのないものを持って帰って欲しい」と話されます。今回お話を伺った実習生にとって、上位級受検とは正にこの「かけがえのないもの」を手に入れる為のチャレンジだったのです。
研修指導員であり、実際に実習生達へ上位級受検を指導された藤田敬義製造部長は「正直、最初に随時3級受検の話をした時は、彼女達も困惑していたようですね」と、当時を振り返ります。実際に、会社としても実習生による上位級の受検は初めての事でした。ましてや随時3級を受けるとなれば、それはおのずと高い技術のみならず、相応の日本語力もまた同時に求められます。初の挑戦としてはいささか難易度の高い試みであり、同社の実習生達が緊張してしまうのも無理はなかった事でしょう。この様な状況の中、藤田製造部長が取った行動は、自らも技能検定2級を受検する、というものでした。指導員である藤田製造部長自らが率先して試験に挑み、合格したことで、当初困惑していた実習生達の間にも徐々に「自分の力を試してみたい」「自分も(来日した経験から)何かを得たい」という、自発的な気持ちが育っていったようです。

株式会社ループ代表取締役 浅田俊幸氏

左:藤田敬義製造部長
右:藤澤二美代総務部マネージャー
しかしながら、指導をするとはいえ、元々育った国や言葉、文化も違う者同士。「来日直後、言葉がわからない頃は、意思の疎通に苦労しました」と、生活指導員である藤澤二美代総務部マネージャーが話されるように、一口に指導と言ってもそれほど容易なものではありません。まず、実技に関しては、作業工程の中で実習生本人が「わからないこと」をハッキリとさせ、地道に一つ一つの作業に関する理解を深める方向で指導を行いました。また、日本語の習得についても、月に2回ほど外部から日本語講師を招いて1時間×2クールに及ぶ勉強会を開くなど、より実践的な日本語力を身に付ける為の対策を講じてきました。こういった指導が功を奏し、実技に関しては、カーテン工事作業特有のブラケットやレール、ランナといった部品の取扱や、ヘム幅、上部幅への対応を始めとする、様々な状況に応じた作業が実習生一人で出来るようになりました。

技能実習生に指導を行う研修指導員・藤田氏

各行程リーダーによる指導のもと、作業を行う実習
そして、地道な努力の末、同社に所属する実習生達は随時3級への初挑戦にして、見事13名中9名が合格を果たしたのです。

見事、初の挑戦にして内装仕上げ施工随時3級合格を果たした9名の実習生達
残念ながら今回は全員の合格こそ成りませんでしたが、同社の研修・実習生達が親身な指導に裏付けられた確かな技術と、スキルアップにかける意欲とやる気を持っている事は、実際に試験に立ち会った方のお話からも明らかです。内装仕上げ施工の検定委員であり、福井県技能士会連合会会長を務める丹羽章男氏に、受検時の様子について伺うと「株式会社ループの実習生達は、内装仕上げに関する高い技術を持っているだけではなく、1人1人の受検に臨む態度を見ても、会社の教育がしっかりと行き渡っていると感じました」と話されました。
「好循環の形成を目指す」
株式会社ループでは、従業員による各種資格の取得を広く奨励しており、技能検定合格者に対しては費用面での援助を行うなど、会社としてより高い技能の修得へ向けた取組を展開しています。特に、実習生に対する受検指導については、技能検定受検のみならず日本語検定の受検も視野に入れた指導を行っており、有意義な技能実習の実施に努めています。一連の受検指導について、浅田社長にお話を伺うと「試験合格という一つの目標を設定することで、実習生達にも仕事に対する能動的な態度が身に付くし、受検という経験から時間を有意義に使うことも同時に学んで欲しい」と話されました。株式会社ループでは、各人が自分から進んで技能修得に取り組む事を会社、しいては系列グループ全体のメリットとして認識し、会社の活性化に繋げていきたいとの事です。
「“自分から進んで”」
今回の受検について、同社の実習生王 惠娟さんと童 美?からお話を伺うと、常に努めて日本語を使うよう心がけ、他の従業員とコミュニケーションを図った事や、主に「話す・聞く」能力は日常会話やラジオとテレビから、「読む・書く」能力については、わからない言葉に出会う都度自分から進んでインターネットや電子辞書を使って調べるようにしたなど、受検にまつわる色々な体験談を聞く事ができました。このような、自主的に問題解決へ取り組む態度は、日頃の作業の中で、どんなに些細な事でも自分で理解するまで追求したという姿勢にも顕著に現れています。
彼女達の技能修得へ向けた意欲的な姿勢は、毎日指導員と実習生本人達との間で取り交わしていた作業日報からも窺うことができます。拝見した実習生王さんの日報には、その日の仕事を通じて自分が思った事、感じた事などが、毎日丁寧かつ明快に綴られていました。今回9名もの合格者を出した成果の秘訣は、こういった実習生本人達の技能修得にかける自発的な努力と、献身的な会社のサポートが一体となった、正に地道な努力の一つ一つが実った成果であるとも言えるでしょう。
9月に帰国を控えた実習生童さんは、日本での経験を振り返って「(日本で)得た技術と知識を帰国後も活かしていきたい」と、今後の抱負を語ってくれました。

左:王 惠娟さん 右:童 美凤さん

作業日報は全て日本語で毎日取り交わされている
「スキルアップへ向けた意識改革 ~組合による取り組み~」
株式会社ループが所属する北陸対外事業協同組合に、上位級への取り組みについて伺うと、同組合では上位級の実務内容に対応した実習指導を行った上で、受検における課題である日本語習得についても、入国当初に実施する集合研修の段階から適宜教材を提供し、傘下企業と相談して実習生が日本語を学べる場を設けるなど、実務と語学の両面において、先ず実習生自身に「習得意識を持たせる」事を主眼に置いた試みを実施しています。
上位級受検がもたらす具体的なメリットについて、同組合の阿部進専務理事は、「上位級受検により、まず、本人にスキルアップの意識が根付きます。そして、自らスキルアップを目指す姿勢が、有意義な研修・技能実習の実施につながります。当組合では、将来的には傘下企業全ての業種において受検させるのが目標です。」と、力強く話されました。
技能修得がもたらすメリットをいち早く捉え、技能移転へ向け精力的な取組を実施している同組合は、実習生による上位級受検を2年間に亘る技能実習期間における、1つの成果を得る為の機会として考えています。
「協会・組合・企業による連携した取り組み」
福井県における上位級受検について、福井県職業能力開発協会に伺ったところ、「協会の活動に対して、協力的な方が多い」という福井県では、各職種試験の検定委員を務める方々も皆、地元における各職種のベテラン揃いとの事。今回の合格事例は、内装仕上げ施工職種におけるものでしたが、今後、同協会の管轄内の企業において、染色や電子機器組み立てなど、幅広い職種の試験が実施される予定であり、協会から組合・企業に対して受検に関する情報提供を適宜行い、受検勧奨に努めているとの事です。一歩一歩、より確実な技能移転へ向けて歩みつつある福井県では、今後、さらなる上位級受検者数の増加が見込まれています。
これまで上位級受検者が少なかった内装仕上げ施工職種において、初挑戦の企業が9名もの随時3級合格者を輩出した事実は、これまで述べてきたとおり、実習生本人達による自発的な努力と高い技術、企業と団体、そして地元職業能力開発協会による親心に満ちた親身なサポートが実を結んだ結果であるとも言えます。
このような“心技一体”の取組が、今後、より高い技能の修得を目指す研修生・実習生、そして、高い技術と技能を身につけさせたいと考える受入れ団体・企業にとって、素晴らしい規範となっていくことを望みます。




